行政書士 過去問ノート

左:問題 / 右:解説

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令和6年 問題2(基礎法学・裁判手続の原則)

問題解説

民事訴訟手続において、裁判長は、口頭弁論の期日または期日外に、訴訟関係を明確にするため、事実上および法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、または立証を促すことができる。

○ 妥当民事訴訟法149条1項のとおり。

これを釈明権という。

民事訴訟では、事実や証拠を出すのは当事者の役目(弁論主義)。でも当事者の言っていることがあいまいなままだと、正しい裁判ができない。

そこで裁判長が「これはどういう意味ですか」「証拠はありますか」とたずねたり、うながしたりできるようにしている。

期日の中(口頭弁論の場)でも、期日の外でもできる。

刑事訴訟手続において、検察官は、犯人の性格、年齢および境遇、犯罪の軽重および情状ならびに犯罪後の状況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

○ 妥当刑事訴訟法248条のとおり。

これを起訴便宜主義という。犯罪の疑いがじゅうぶんでも、事情を見て起訴しない(起訴猶予)ことができる。

反対の考え方は起訴法定主義(疑いがあれば必ず起訴する。ドイツなど)。

起訴するかどうかを決めるのは検察官だけ(起訴独占主義・刑訴247条)。そのかわり、検察審査会などで、起訴しなかった判断をチェックするしくみがある。

非訟事件手続において、裁判所は、利害関係者の申出により非公開が相当と認める場合を除き、その手続を公開しなければならない。

× 妥当でない原則と例外がさかさま。

非訟事件手続法30条:非訟事件の手続は公開しない(原則 非公開)。ただし、裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる(例外)。

非訟事件とは:権利があるかないかを白黒つける裁判(訴訟)ではなく、裁判所が後見的に、ちょうどよい処分を決める手続。たとえば、成年後見人をえらぶ、相続財産の管理人をえらぶ、など。

プライバシーにかかわることが多く、公開にはなじまない。

憲法82条の「裁判の公開」は、権利義務を確定する純然たる訴訟事件のこと。非訟事件はそれにあたらないので、非公開でも憲法違反ではない(判例)。

正しくは:原則 非公開、例外として相当と認める者の傍聴を許すことができる。

民事訴訟手続において、裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。

○ 妥当民事訴訟法247条のとおり。

これを自由心証主義という。どの証拠をどれくらい信じるかは、法律で決めておかず、裁判官の自由な判断にまかせる。

判断の材料は 2 つ:

・証拠調べの結果(証人のことば、書類など)

・口頭弁論の全趣旨(当事者の態度、主張のしかた・タイミングなど、証拠以外のようす)

反対の考え方は法定証拠主義(「証人が 2 人いれば真実とする」のように、法律で決めておく)。刑事訴訟にも自由心証主義がある(刑訴318条)。

刑事訴訟手続において、検察官は、起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添付し、またはその内容を引用してはならない。

○ 妥当刑事訴訟法256条6項のとおり。

これを起訴状一本主義という。起訴のときは起訴状だけを出し、証拠などはつけない。

理由:裁判官が裁判の前に証拠を見ると「この人は犯人だろう」という思いこみ(予断)をもってしまう。白紙の状態で法廷にのぞむため。

予断排除の原則のひとつ。憲法37条1項の「公平な裁判所」の考え方につながる。
まとめ 手続の原則と名前

条文を読んで、原則の名前が言えるようにする。

「原則と例外をさかさまにする」のは、よくあるひっかけ。

・民訴149条 → 釈明権

・刑訴248条 → 起訴便宜主義(起訴猶予)

・非訟法30条 → 非公開が原則(ここが × のひっかけ)

・民訴247条 → 自由心証主義

・刑訴256条6項 → 起訴状一本主義(予断排除)

おぼえかた:「訴訟は公開、非訟は非公開」。

令和6年 問題3(憲法・氏名と人格権)

問題解説

氏名は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する。

○ 妥当判例のことばそのまま。

氏名には 2 つの顔がある。

・社会から見ると → 人を見分けるための「しるし」

・本人から見ると → その人の人格の象徴 → 人格権の一部

氏は、婚姻及び家族に関する法制度の一部として、法律がその具体的な内容を規律しているものであるから、氏に関する人格権の内容も、憲法の趣旨を踏まえつつ定められる法制度をまって、初めて具体的に捉えられる。

○ 妥当判例のとおり。

「氏」は、名前とちがって、結婚や家族の法律のしくみの中で決まるもの。

だから、氏についての人格権がどこまでかは、法律の制度ができてはじめてはっきりする、という考え方。

ポイント:氏の人格権は「制度より先にある、まるごとの権利」ではない。→ 「氏の変更を強制されない自由」は人格権ではない、という結論につながる。

家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから、氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性があり、また氏が身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されている。

○ 妥当判例のとおり。

・家族は社会のいちばん基本のまとまり → 家族で氏をひとつにするのは合理的

・結婚・離婚・養子などで氏が変わることは、もともと予定されている

現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。

○ 妥当判例のとおり。

「氏は法制度の中で決まる」「家族でひとつの氏にするのは合理的」という考え方から、結婚のときに「氏を変えさせられない自由」は、憲法13条で守られる人格権とはいえない、とした。

→ だから民法750条は憲法13条に違反しない。

婚姻前に築いた個人の信用、評価、名誉感情等を婚姻後も維持する利益等は、憲法上保障される人格権の一内容とはいえず、当該利益を婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討する際に考慮するか否かは、専ら立法裁量の問題である。

× 妥当でない前半は正しいが、後半(波線)がまちがい。

判例はこう言っている(要約):

この利益は、憲法上の人格権とまではいえないけれども、制度のあり方を考えるときに考慮すべき人格的利益であり、憲法24条の立法裁量をこえるかどうかを判断するときに考えるべきことがらである。

つまり「考えるか考えないかは国会の自由(専ら立法裁量)」ではなく、考えなければいけないもの。

前半 ○:憲法上の人格権の一内容「とはいえない」

後半 ×:「専ら立法裁量の問題」→ 正しくは「考慮すべき人格的利益」

まとめ 判例の流れ

もとになる判例:夫婦同氏制 合憲判決(最大判平成27年12月16日)。民法750条(夫婦は同じ氏を名のる)は憲法13条・14条・24条に違反しない、とした。

「氏名は人格権の一内容」の部分は NHK 日本語読み訴訟(最判昭和63年2月16日)でも言われている。

上の 5 つの文は、判決の理由の順番どおりに並んでいる。

① 氏名は人格権の一部

② でも氏は法制度の中で決まる

③ 家族でひとつの氏にするのは合理的

④ だから「氏を変えさせられない自由」は憲法上の人格権ではない

⑤ ただし、婚姻前の信用などを守る利益は、制度を考えるときに考慮すべき利益(ここが × のひっかけ)

おぼえかた:「人格権ではない。でも考慮すべき」。ひっかけは「専ら立法裁量」の部分。

令和6年 問題5(憲法・教育を受ける権利)

問題解説

義務教育は無償とするとの憲法の規定は、授業料不徴収を意味しており、それ以外に、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用を無償としなければならないことまでも定めたものと解することはできない。

○ 妥当判例のとおり(教科書費国庫負担請求事件・最大判昭和39年2月26日)。

憲法26条2項後段「義務教育は、これを無償とする。」の「無償」は、授業料をとらないという意味。

教科書代など、ほかの費用まで憲法がただにせよと言っているわけではない。

いま教科書がただなのは、憲法の要求ではなく法律(教科書無償措置法)による。授業料の不徴収は教育基本法5条4項・学校教育法にも定めがある。

教科書は執筆者の学術研究の結果の発表を目的とするものではなく、また、教科書検定は検定基準に違反する場合に教科書の形態での研究結果の発表を制限するにすぎないので、教科書検定は学問の自由を保障した憲法の規定には違反しない。

○ 妥当判例のとおり(第一次家永教科書訴訟・最判平成5年3月16日)。

憲法23条(学問の自由)との関係:

・教科書は、研究の成果を発表するための本ではない(子どもに教えるための本)

・検定で不合格でも、ふつうの本として出すのは自由。だめなのは「教科書という形」で出すことだけ

→ 学問の自由の侵害にはならない。

同じ判決で、検定は検閲(21条2項)にもあたらない、とされた。一般図書としての発行は禁止されず、発表前の審査でもないから。

公教育に関する国民全体の教育意思は、法律を通じて具体化されるべきものであるから、公教育の内容・方法は専ら法律により定められ、教育行政機関も、法律の授権に基づき、広くこれらについて決定権限を有する。

× 妥当でないこれは国家の教育権説。旭川学テ事件は、この説をしりぞけた。

判例:「国家の教育権説」も「国民の教育権説」も、極端かつ一方的で、どちらも全面的にはとれない。

判例の立場は、国は「必要かつ相当と認められる範囲」で教育内容を決める権能をもつ、というもの。しかも、その介入はできるだけ抑制的でなければならない。

見分けかた:「専ら法律により」「広く決定権限」→ 国にまるごとまかせる言い方は、判例ではない。

国民の教育を受ける権利を定める憲法規定の背後には、みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在している。

○ 妥当旭川学テ事件のことばのとおり。

憲法26条の背後には、子どもの学習権がある。

子どもは自分で学べないので、大人一般に対して「教育をしてほしい」と要求できる。だから教育は、大人の「権能」ではなく、子どもに対する「責務」だ、と判例は言う。

普通教育では、児童生徒に十分な批判能力がなく、また、全国的に一定の教育水準を確保すべき強い要請があること等からすれば、教師に完全な教授の自由を認めることはとうてい許されない。

○ 妥当旭川学テ事件のとおり。

普通教育(小・中・高)の教師にも、23条の教授の自由が一定の範囲ではある。でも完全な自由はない。

大学とちがう理由:

① 児童生徒には批判する能力がない

② 教師の影響力が強い

③ 子どもは学校・教師をえらべない

④ 全国で一定の水準をたもつ必要

「一定の範囲である」と「完全な自由はない」をセットでおぼえる。「普通教育の教師に教授の自由はない」と言いきる文が出たら ×。
まとめ 教育の判例

旭川学力テスト事件(最大判昭和51年5月21日)が中心。

「朝日訴訟」は生存権(25条)の別の判例なので注意。

・義務教育の無償 = 授業料の不徴収(教科書費国庫負担請求事件)

・教科書検定は 23条違反でない(第一次家永教科書訴訟)

・教育権:国家説も国民説も極端かつ一方的(ここが × のひっかけ)

・26条の背後に子どもの学習権

・普通教育の教師:教授の自由は一定の範囲で、完全ではない

令和6年 問題15(行政法・行政不服審査法の適用範囲)

問題解説

納付すべき金銭の額を確定し、一定の額の金銭の納付を命じ、または金銭の給付決定の取消しその他の金銭の給付を制限する不利益処分については、行審法の規定は適用されない。

× 妥当でないこれは行政手続法の話。

行政手続法13条2項4号:金銭の納付を命じる処分などは、聴聞・弁明の機会をあたえなくてよい。

お金の処分は、あとから払いもどしたり調整したりできるので、処分の前の手続(意見を聞くこと)まではいらない、という考え方。

でも、処分のあとに不服を言う行審法の審査請求は、ふつうにできる。行審法1条2項のとおり、処分の不服申立ては、ほかの法律に特別の定めがなければ行審法による。

行手法=処分の前の手続。行審法=処分のあとの不服申立て。「前の手続がいらない」からといって「あとで争えない」わけではない。

正しくは:行政手続法の聴聞・弁明の規定が適用されない(行審法の審査請求はできる)。

行審法が審査請求の対象とする「行政庁の不作為」には、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分がされていない場合も含まれる。

× 妥当でない行審法の「不作為」は、もっとせまい。

行審法3条:不作為=法令に基づく申請に対して何の処分もしないこと。審査請求できるのは、申請をした人だけ。

問題の文の「法令に違反する事実があるのに、是正の処分がされていない」は、行政手続法36条の3の処分等の求めの話。こちらは何人も(だれでも)行政に「処分をしてください」と申し出ることができる。

たとえば、となりの工場が法律違反をしているのに役所が放置している → 行審法の不作為の審査請求はできない。行手法36条の3で「処分を求める」ことはできる(訴訟なら行訴法の非申請型義務付け訴訟)。

正しくは:行審法の「不作為」は、法令に基づく申請に対して何の処分もしないことにかぎられる。

地方公共団体の機関がする処分でその根拠となる規定が条例または規則に置かれているものについては、行審法の規定は適用されない。

× 妥当でないこれも行政手続法の話。

行政手続法3条3項:条例・規則に根拠がある処分には、行手法の処分の規定が適用されない(地方公共団体が自分で手続条例を作る)。

一方、行審法には、このような適用除外はない。条例に基づく処分(たとえば市の条例による許可の取消し)でも、行審法で審査請求できる。

行手法は、地方の自治を尊重して「条例のことは地方にまかせる」。行審法は、国民の救済のための法律なので、根拠が法律でも条例でも同じように救済する。

正しくは:行政手続法の規定が適用されない(行審法は適用される)。

地方公共団体またはその機関に対する処分で、当該団体または機関がその固有の資格において処分の相手方となるものについては、行審法の規定は適用されない。

○ 妥当行審法7条2項のとおり。

固有の資格とは:ふつうの国民(私人)は立つことのない、行政の立場ならではの資格のこと。

行審法は国民の権利利益を救済するための法律(1条1項)。行政どうしのもめごとは、国民の救済とはちがうので、行審法の外で解決する(地方自治法の国地方係争処理委員会など)。

反対に、地方公共団体が私人と同じ立場で処分を受けるとき(たとえば、ふつうの事業者と同じように営業の許可を受ける)は、行審法が適用される。なお、行手法にも同じような適用除外がある(行手法4条1項)。

行審法は、国または公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める審査請求で、自己の法律上の利益にかかわらない資格でするものについても規定している。

× 妥当でないこんな審査請求は、行審法にない。

この文は、行政事件訴訟法5条の民衆訴訟の定義の「訴訟」を「審査請求」にかえただけ。民衆訴訟の例は、選挙の効力を争う訴訟や、住民訴訟。

行審法は、自分の権利利益を救済するための制度(1条1項)。自分の利益にかかわらない立場で、行政の違法をただすための審査請求は、定められていない。

行訴法には、自分の利益のための主観訴訟(抗告訴訟・当事者訴訟)と、そうでない客観訴訟(民衆訴訟・機関訴訟)がある。行審法には、客観訴訟にあたるものがない。

正しくは:これは行政事件訴訟法の民衆訴訟の定義。行審法には、このような審査請求の規定はない。

まとめ 3 つの法律をまぜたひっかけ

この問題は、行手法・行訴法の条文を「行審法」と書きかえて、まちがいの文を作っている。

「その規定は、ほんとうに行審法のもの?」と、まず法律を見わけるのがコツ。

・金銭の処分で聴聞・弁明がいらない → 行手法13条2項4号

・法令違反の是正を求める(処分等の求め) → 行手法36条の3

・条例・規則に根拠がある処分の適用除外 → 行手法3条3項(行審法にはない)

・固有の資格で受ける処分の適用除外 → 行審法7条2項(行手法4条1項にも)

・自分の利益にかかわらない資格で是正を求める → 行訴法5条(民衆訴訟)

令和6年 問題32(民法・他人の物の売買と無権代理)

問題解説
設定

A所有の動産甲(以下「甲」という)を、BがCに売却する契約(以下「本件契約」という)。

甲はA の物。それを、持ち主ではないBがCに売る。

B の売り方は 2 とおり:

・B が自分を売主として売る → 他人の物の売買(他人物売買)

・B がA の代理人だとうそをついて売る → 無権代理

どちらの話か、まず見わけるのがコツ。

Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うが、本件契約成立の当初からAには甲を他に譲渡する意思のないことが明確であり、甲の所有権をCに移転することができない場合には、本件契約は実現不能な契約として無効である。

× 妥当でないはじめから A が売る気がなくても、契約は有効。

民法561条:他人の物を売ったら、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務をおう。他人の物の売買も、契約としては有効。

判例(最判昭和25年10月26日)も、持ち主にはじめから売る意思がない場合でも、他人物売買は有効とした。

さらにいまの民法は、契約のときから履行ができない(原始的不能)場合でも、契約は無効にならないことを前提にしている(412条の2第2項)。

契約が有効だから、C は B に債務不履行の責任(損害賠償・解除)を問える。無効にしてしまうと、かえって C が守られない。

正しくは:A に譲渡する意思がないことが明確でも、本件契約は有効。

Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うところ、本件契約後にBが死亡し、AがBを単独相続した場合においては、Cは当然に甲の所有権を取得する。

× 妥当でない持ち主 A は、相続してもことわれる。

判例(最大判昭和49年9月4日):持ち主(権利者)が、他人物売主を相続しても、信義則に反するような特別の事情がないかぎり、売主としての義務(甲を C に移す義務)を拒むことができる。

理由:A は、もともと甲を売るかどうか自由に決められた人。たまたま B を相続しただけで、その自由をうばうのはおかしい。

C は甲をもらえないが、B から受けついだ損害賠償などの責任は A におえる。
くらべる:無権代理人が本人を相続した場合は、無権代理人は追認を拒めない(自分でしたことなので)。向きが逆の話と区別する。

正しくは:C は当然には甲の所有権を取得しない。A は特別の事情がないかぎり、履行を拒める。

Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主とする本件契約を締結し、Cに対して甲を現実に引き渡した場合、Cは即時取得により甲の所有権を取得する。

× 妥当でない無権代理には、即時取得は使えない。

民法192条の即時取得は、売った人が持ち主ではない(無権利)という欠点を、取引の安全のために補う制度。

この肢では、C は「A から買う」つもりで、A は本当に持ち主。欠点は「B に代理権がない」こと。これは即時取得では補えない。

無権代理の契約は、A が追認しなければ A に効力がない(113条1項)。C が守られるのは、表見代理(110条など)が成り立つ場合。

即時取得 = 相手が「持ち主でない」ことを補う。表見代理 = 相手が「代理権がない」ことを補う。どこに欠点があるかで、使う制度がちがう。

正しくは:即時取得はできない。A が追認するか、表見代理が成り立たないかぎり、C は甲の所有権を取得しない。

Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主として本件契約を締結した場合、Bに本件契約の代理権がないことを知らなかったが、そのことについて過失があるCは、本件契約が無効となった場合であっても、Bに対して履行または損害賠償の請求をすることができない。

× 妥当でないB は「偽った」= 代理権がないと知っていた。だから C に過失があっても請求できる。

民法117条:無権代理人は、相手方の選んだほうで、履行か損害賠償の責任をおう(1項)。

相手方が過失で知らなかったときは、責任をおわない(2項2号本文)。ただし、無権代理人が自分に代理権がないことを知っていたときは、責任をおう(2項2号ただし書)。

うそをついた人が「あなたにも落ち度があった」と言いのがれるのは、ゆるされない、ということ。

2017年の民法改正で入った「ただし書」。相手方が知っていた(悪意)ときは、ただし書はなく、いつでも請求できない(2項1号)。

正しくは:B が代理権のないことを知っていたので、過失のある C でも、B に履行または損害賠償を請求できる。

Aが法人で、Bがその理事である場合、Aの定款に甲の売却に関しては理事会の承認が必要である旨の定めがあり、Bが、理事会の承認を得ないままにAを売主、Cを買主とする本件契約を締結したとき、Cが、その定款の定めを知っていたとしても、理事会の承認を得ていると過失なく信じていたときは、本件契約は有効である。

○ 妥当判例(最判昭和60年11月29日・漁業協同組合の理事の事件)のとおり。

理事(代表理事)は、法人の仕事のすべてについて代表する権限がある。その権限を定款でしぼっても、善意の第三者には主張できない(一般社団法人法77条4項・5項)。

でも C は、定款の定めを知っていた(善意ではない)。それでも、「理事会の承認をもらっている」と信じ、そう信じることに正当な理由があるときは、民法110条(権限外の行為の表見代理)を類推適用して、法人は責任をおう。

2 だんがまえで C を守る:① 制限を知らなければ → 法人法77条5項 / ② 制限を知っていても、承認があると正当な理由で信じれば → 110条類推。「過失なく信じた」は、② の「正当な理由」にあたる。
まとめ 他人物売買か、無権代理か

B が自分を売主にしたか(他人物売買)、A の代理人を名のったか(無権代理)で、使う条文がまったくちがう。

【他人物売買】

・契約は有効(561条)。持ち主に売る気がなくても有効(判例)

・持ち主が売主を相続 → 特別の事情がなければ拒める(判例)

【無権代理】

・本人が追認しなければ、本人に効力なし(113条)。即時取得はダメ

・無権代理人の責任(117条):相手方に過失があっても、無権代理人が知っていたなら責任あり

【法人の理事】

・代表権の制限は善意の第三者に対抗できない(法人法77条5項)

・制限を知っていても、承認があると正当な理由で信じれば 110条類推(判例)

令和6年 問題44(記述式・行政法・競願と取消訴訟)

問題解説

総務大臣Yは、新たなテレビ放送局の開設を目的として、電波法に基づく無線局開設免許を1社のみに付与することを表明した。これを受けて、テレビ放送局を開設しようとする会社XがYに開設免許の申請をしたところ、Yは、その他の競願者の申請を含めて審査を実施し、会社Aに対しては免許を付与する処分(免許処分)をし、Xに対しては申請を棄却する処分(拒否処分)をした。

これに対し、Xは取消訴訟を提起して裁判上の救済を求めたいと考えている。競願関係をめぐる最高裁判所の判例の考え方に照らし、Xは誰を被告として、どのような処分に対する取消訴訟を提起できるか。なお、現行の電波法は、審査請求前置や裁決主義の規定を置いているが、それらは度外視して、直接に処分取消訴訟ができるものとして考え、40字程度で記述しなさい。

国(総務大臣 Y) 免許は 1 社だけ A 競願者・免許を受けた X 申請を棄却された 免許処分 拒否処分 表裏の関係(一方に与えると、他方は拒否) X は国を被告に、どちらの取消訴訟も起こせる ① A への免許処分の取消し / ② 自分への拒否処分の取消し 取消訴訟
状況図

✍️ 解答例(42字)

国を被告として、Aへの免許処分の取消訴訟か、自己への拒否処分の取消訴訟を提起できる。

聞かれているのは 2 つ:

①「誰を被告として」→ 国(行訴法11条1項)

②「どのような処分に対する」→ A への免許処分でも、自分への拒否処分でもよい(判例)

考え方 ① 被告はだれ?

処分をしたのは総務大臣 Y。

取消訴訟の被告は、処分をした行政庁が所属する国または公共団体(行訴法11条1項1号)。総務大臣は国の行政庁なので、被告は国。

「総務大臣 Y を被告」と書くとまちがい。2004年の改正で、被告は行政庁ではなく、国・公共団体になった(行政庁が国や公共団体に所属しない場合だけ、行政庁が被告)。
考え方 ② A への免許処分を争える?

免許処分の相手方は A で、X ではない。

争える。免許は 1 社だけなので、A への免許と X への拒否は表裏の関係。A への免許が取り消されれば、X が免許を受けられる可能性がある。だから X には、A への免許処分の取消しを求める法律上の利益(行訴法9条1項)がある。

考え方 ③ 自分への拒否処分だけを争っても意味がある?

拒否処分を取り消しても、A の免許はのこったまま?

意味がある(訴えの利益がある)。拒否処分が違法として取り消されると、行政庁は白紙の状態にもどって審査をやり直す。その結果、A への免許を取り消して、X に免許を与えることもありうるから。

判例:東京12チャンネル事件(最判昭和43年12月24日)。競願者は、他人への免許処分の取消訴訟も、自分への拒否処分だけの取消訴訟も、どちらも起こせる。
考え方 ④ X は、A に文句を言っているの?

A の処分に、X が口を出すのは へんな感じがする。

X が争うのは、A ではなく国(総務大臣)の えらび方。たとえば:

・審査の基準のあてはめ方が おかしい

・手続に問題があった

・X のほうが条件を満たしていたのに、A をえらんだ

だから被告は A ではなく国。枠が 1 つなので、A への免許は「X が落ちた」こととひとつながり。X にとって「よその会社の話」ではない。

考え方 ⑤ A の資料が見えないのに、どうやって戦う?

A がどんな申請をしたのか、X にはわからない。

法律に しかけがある。

・拒否の理由を教えてもらえる:申請を拒否するときは、行政庁は同時に理由を示さなければならない(行政手続法8条1項)。

・裁判所が、国に資料を出させられる:処分の理由を明らかにする資料の提出を、裁判所が国に求められる(行訴法23条の2・釈明処分の特則)。

・じっさいの裁判では、なぜ A をえらんだのかを、国が資料で説明することになる。X だけが全部を証明するわけではない。

考え方 ⑥ A にしたら たまったもんじゃない?

知らないところで、自分の免許が取り消されるかもしれない。

だから A を守る しくみもある。

・取消判決は A にもおよぶ:処分を取り消す判決は、第三者にも効力がある(行訴法32条1項・第三者効)。

・A は訴訟に参加できる:訴訟の結果で権利を害される第三者は、裁判所の決定で訴訟に参加して、自分の言い分を言える(行訴法22条1項・第三者の訴訟参加)。A が自分で申し立てることもできる。

判決が A にもおよぶ(32条)から、A に言い分を言う場をあたえる(22条)。2 つはセットでおぼえる。
まとめ 採点で見られそうなことば

「誰を被告として」「どのような処分に対する」に、1 つずつ答える。

・国を被告(総務大臣ではない)

・A への免許処分の取消訴訟

・自分(X)への拒否処分の取消訴訟

問題文の「1社のみに付与」は、免許と拒否が表裏の関係になるヒント。「審査請求前置や裁決主義は度外視」は、処分そのものを争えばよい、という意味。

令和6年 問題45(記述式・民法・動産売買の先取特権)

問題解説

Aは、海外からコーヒー豆を輸入して国内の卸売業者に販売する事業を営んでいる。Aは、卸売業者Bにコーヒー豆1トン(以下「甲」という)を販売し、甲は、B所有の倉庫内に第三者に転売されることなくそのまま保管されている。Aは、Bに対し、甲の売買代金について、その支払期限経過後、支払って欲しい旨を伝えたが、Bは、経営不振を理由に、いまだAに支払っていない。BにはA以外にも一般債権者がいる。この場合に、Aは、甲についていかなる権利に基づき、どのような形で売買代金を確保することができるか。民法の規定に照らし、40字程度で記述しなさい。

A(売主) コーヒー豆の輸入業者 B(買主) 卸売業者・経営不振 甲を販売し、引き渡しずみ 代金 未払い(支払期限すぎ) 甲(コーヒー豆1t) B の倉庫に そのまま B 所有 まだ転売されていない 動産売買の先取特権 (311条5号・321条)→ 競売して優先弁済 B のほかの一般債権者 A よりあと
状況図

✍️ 解答例(44字)

動産売買の先取特権に基づき、甲を競売して、その代金から他の債権者に先立って弁済を受ける。

聞かれているのは 2 つ:

①「いかなる権利に基づき」→ 動産売買の先取特権(民法311条5号・321条)

②「どのような形で」→ 甲を競売して、他の債権者に先立って弁済を受ける(303条)

考え方 ① A は甲にどんな権利をもつ?

売ったコーヒー豆の代金をまだもらっていない。でも、甲はもう B にわたしてしまった。

動産を売った人は、その代金と利息について、売った動産の上に先取特権をもつ(311条5号・321条)。

先取特権は、法律で当然に生まれる担保物権。契約で決めなくても、売っただけで A にある。

甲はもう B にわたしているので、同時履行の抗弁や留置権(手もとに置いて「払うまでわたさない」)は使えない。だから先取特権が答えになる。
考え方 ② 先取特権で何ができる?

B には A 以外にも一般債権者がいる。

先取特権者は、債務者の財産から、他の債権者に先立って自分の債権の弁済を受けられる(303条)。

先取特権がなければ、A も一般債権者と同じ立場(債権者平等)で、債権額におうじて分けあうだけ。先取特権があるので、甲の代金からは A が優先して受けとれる。

問題文の「A 以外にも一般債権者がいる」は、「優先して」と書かせるためのヒント。
考え方 ③ どうやって代金を確保する?

甲は B の倉庫にある。

先取特権を実行して、甲を競売にかける。その売却代金から、A が優先して弁済を受ける。

動産を目的とする担保権の実行としての競売(動産競売)は、民事執行法190条で定められている。甲は B がもっているので、A は、先取特権があることを証明する文書を出して、執行裁判所に競売の許可を求めることができる(同条2項)。

考え方 ④ 「第三者に転売されることなく」の意味

甲は、B の倉庫に、そのまま保管されている。

動産の先取特権は、債務者がその動産を第三取得者に引き渡したあとは、その動産について行使できない(333条)。

この問題では、甲はまだ転売されず B のもとにある → 甲そのものに先取特権を使える、という意味のヒント。

もし B が甲を転売していたら:甲そのものには行使できない。でも、転売代金に物上代位できる(304条)。ただし、代金が払われる前に差押えが必要。
まとめ 採点で見られそうなことば

記述式は、キーワードがそろっているかが大事。

・動産売買の先取特権(権利の名前)

・競売(実行の形)

・他の債権者に先立って(優先して)弁済を受ける(効果)

「留置権」「同時履行の抗弁」「物上代位」は、この事例では答えにならない。問題文の事実(もう引き渡した・転売されていない)が、それを消すヒントになっている。

令和6年 問題46(記述式・民法・登記請求権の代位行使)

問題解説

Aは、Bとの間で、BがCから購入した甲土地(以下「甲」という)を買い受ける契約を締結し、Bに対して代金全額を支払ったが、甲の登記名義はいまだCのままである。BC間の売買において、CがBへの移転登記を拒む理由は存在せず、また、BがCに対して移転登記手続をすべきことを請求している事実もない。一方、Aは、早期に甲の所有権取得の対抗要件として登記を具備したい。

このような場合、Aは、何のために、誰の誰に対するいかなる権利を、どのように行使できるか。40字程度で記述しなさい。

C(もとの持ち主) 登記名義は まだ C B(中間者) C に登記を請求しない A(買主) 代金は全額支払いずみ 甲を売買 甲を売買 ① A の B に対する移転登記請求権(これを守るため) ② B の C に対する 移転登記請求権 ③ A が B に代位して、②を C に行使(423条の7) → C から B への移転登記 → そのあと B から A へ
状況図

✍️ 解答例(46字)

Bに対する登記請求権を保全するため、BのCに対する移転登記請求権を、Bに代位して行使できる。

聞かれているのは 4 つ:

①「何のために」→ A の B に対する移転登記請求権を保全するため

②「誰の誰に対する」→ B の C に対する

③「いかなる権利を」→ 移転登記請求権

④「どのように」→ B に代位して行使する(民法423条の7)

考え方 ① A はなぜ登記がほしい?

A は甲を買って代金も払った。でも登記は C のまま。

不動産の所有権を手に入れても、登記をしなければ第三者に対抗できない(177条)。たとえば C が甲をほかの人に二重に売って、その人が先に登記をすると、A は負けてしまう。

だから A は、早く自分の名義にしたい。

考え方 ② A は C に「直接 A に登記を」と言える?

C → B → A と売られている。

原則として言えない。C から A へ直接うつす登記(中間省略登記)は、権利のうつりかわりの事実(C→B→A)とちがうから。判例は、登記名義人 C と中間者 B の両方の同意があるときだけ、例外として認める(最判昭和40年9月21日)。

この問題では、B も C も同意していない。そこで、C → B → A と順番どおりに登記をうつす方法を考える。

考え方 ③ B が動かない。どうする?

B は C に「登記をうつして」と請求していない。

A は、B に対して「登記を A にうつして」と言える(売買の買主の移転登記請求権)。でも B 自身に登記がないので、このままではうつせない。

そこで、B が C に対してもっている移転登記請求権を、A が B のかわりに(B に代位して)C に行使できる(423条の7)。これで C → B の登記ができ、そのあと B → A の登記をする。

問題文の「B が C に請求している事実もない」は、423条の7 の「その権利を行使しないとき」にあたるヒント。「C が拒む理由は存在せず」は、C に言いのがれがないことのヒント。
考え方 ④ ふつうの債権者代位権とのちがい

A は、B がお金にこまっていることを証明しなければならない?

しなくてよい。ふつうの債権者代位権(423条)は、お金の債権を守るため、債務者が無資力(財産がたりない)であることが必要と考えられてきた。

登記請求権を守るための代位(423条の7)は、B の財産全体を守るためではなく、特定の権利(A の登記請求権)を守るためのもの。だから無資力は要件ではない。

もとは判例が認めていた「債権者代位権の転用」(大判明治43年7月6日)。2017年の民法改正で 423条の7 として条文になった。
まとめ 採点で見られそうなことば

問題文の「何のために・誰の誰に対する・いかなる権利を・どのように」に、1 つずつ答える。

・A の B に対する移転登記請求権を保全するため(何のために)

・B の C に対する(誰の誰に対する)

・移転登記請求権(いかなる権利)

・B に代位して行使(どのように)

「A が C に直接 A への移転登記を請求する」と書くと、中間省略登記になり、まちがい。