夫婦同氏制合憲判決
最大判平成27年12月16日 民集69巻8号2586頁 / 左:判旨 / 右:論証のポイント
事件のあらまし
| 事案・争点 | 結論 |
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事案
民法750条「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」(=本件規定) 夫婦別氏を希望する人たちが、本件規定は憲法13条・14条1項・24条に違反するのに、国会が改正しないのは違法だとして、国家賠償を求めた。 争点(1) 憲法13条:「氏の変更を強制されない自由」は人格権か (2) 憲法14条1項:男女の不平等か (3) 憲法24条:立法裁量の範囲をこえるか |
合憲(上告棄却)。13条・14条1項・24条のどれにも違反しない。 ただし 15 人の裁判官のうち 5 人は「24条に違反する」とした(意見・反対意見)。 同じ日に、再婚禁止期間(民法733条)の 100 日をこえる部分は違憲、という判決も出ている(最大判平成27年12月16日 民集69巻8号2427頁)。セットでおぼえる。なお、再婚禁止期間は、その後の令和4年の民法改正でなくなった(733条は削除。令和6年4月1日から)。 のちの最大決令和3年6月23日も、この判決をそのまま引きついで合憲とした。
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判旨と論証のポイント
| 判旨 | 論証のポイント |
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判旨 ① 憲法13条(人格権)
「氏名は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成するものというべきである…。 しかし、氏は、婚姻及び家族に関する法制度の一部として法律がその具体的な内容を規律しているものであるから、氏に関する上記人格権の内容も、憲法上一義的に捉えられるべきものではなく、憲法の趣旨を踏まえつつ定められる法制度をまって初めて具体的に捉えられるものである。したがって、具体的な法制度を離れて、氏が変更されること自体を捉えて直ちに人格権を侵害し、違憲であるか否かを論ずることは相当ではない。 …本件で問題となっているのは、婚姻という身分関係の変動を自らの意思で選択することに伴って夫婦の一方が氏を改めるという場面であって、自らの意思に関わりなく氏を改めることが強制されるというものではない。 …民法における氏に関する…規定は、氏の性質に関し、氏に、名と同様に個人の呼称としての意義があるものの、名とは切り離された存在として、夫婦及びその間の未婚の子や養親子が同一の氏を称するとすることにより、社会の構成要素である家族の呼称としての意義があるとの理解を示しているものといえる。…氏が、親子関係など一定の身分関係を反映し、婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されているといえる。 以上のような現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると、婚姻の際に『氏の変更を強制されない自由』が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。本件規定は、憲法13条に違反するものではない。 もっとも、…氏を改める者にとって、…アイデンティティの喪失感を抱いたり、…識別し特定される機能が阻害される不利益や、個人の信用、評価、名誉感情等にも影響が及ぶという不利益が生じたりすることがあることは否定できず、特に、近年、晩婚化が進み、…不利益を被る者が増加してきていることは容易にうかがえるところである。これらの婚姻前に築いた個人の信用、評価、名誉感情等を婚姻後も維持する利益等は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないものの、…法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき人格的利益であるとはいえるのであり、憲法24条の認める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事項である…。」 |
論理の流れ
ここが判決のいちばんのしかけ:「憲法上の権利」と「考慮すべき人格的利益」を分けた。13条では負けるけれど、その利益は 24条の審査にもちこまれる。 ✍️ 論証(13条) 氏名は人格の象徴であり、人格権の一内容を構成する。しかし、氏は婚姻及び家族に関する法制度の一部として法律がその内容を規律するものであるから、氏に関する人格権の内容は、法制度をまって初めて具体的に捉えられる。そして、氏は家族の呼称としての意義を有し、身分関係の変動に伴い改められることが性質上予定されている。したがって、婚姻の際に氏の変更を強制されない自由は、憲法13条で保障される人格権の一内容とはいえない。もっとも、婚姻前の氏により築いた信用・評価・名誉感情等を維持する利益は、24条の立法裁量の審査において考慮すべき人格的利益である。 |
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判旨 ② 憲法14条1項(平等)
「…本件規定は、夫婦が夫又は妻の氏を称するものとしており、夫婦がいずれの氏を称するかを夫婦となろうとする者の間の協議に委ねているのであって、その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく、本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。我が国において、…夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めることが認められるとしても、それが、本件規定の在り方自体から生じた結果であるということはできない。したがって、本件規定は、憲法14条1項に違反するものではない。 もっとも、…夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている状況にあることに鑑みると、この現状が、夫婦となろうとする者双方の真に自由な選択の結果によるものかについて留意が求められるところであり、仮に、社会に存する差別的な意識や慣習による影響があるのであれば、その影響を排除して夫婦間に実質的な平等が保たれるように図ることは、憲法14条1項の趣旨に沿うものであるといえる。そして、この点は、…憲法24条の認める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たっても留意すべきものと考えられる。」 |
論理の流れ
13条と同じ形:14条では「形式的平等」だけを見て合憲。「実質的平等」は 24条の審査にまわす。 答案では「法令の文言上の区別」と「事実上の結果の差」を分けて書くのがポイント。 ✍️ 論証(14条1項) 本件規定は、夫婦がいずれの氏を称するかを協議に委ねており、文言上性別に基づく差別的取扱いを定めるものではなく、形式的な不平等は存在しない。夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数であるとしても、それは本件規定の在り方自体から生じた結果とはいえない。よって14条1項に違反しない。もっとも、実質的平等の確保は、24条の立法裁量の審査において留意すべき事項である。 |
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判旨 ③-1 憲法24条1項(婚姻の自由)
「憲法24条は、1項において『婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。』と規定しているところ、これは、婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものと解される。 本件規定は、婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり、婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではない。仮に、…法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択した者がいるとしても、これをもって、直ちに…憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできない。ある法制度の内容により婚姻をすることが事実上制約されることになっていることについては、…国会の立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事項である…。」 |
論理の流れ
「直接の制約」と「事実上の制約」を分けるのがポイント。 くらべる:再婚禁止期間判決では、再婚禁止期間は婚姻への直接の制約とされ、婚姻をするについての自由は「十分尊重に値する」とされた。 |
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判旨 ③-2 憲法24条2項(判断のわく組み)
「…憲法24条2項は、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、同条1項も前提としつつ、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものといえる。 そして、…その要請、指針は、単に、憲法上の権利として保障される人格権を不当に侵害するものでなく、かつ、両性の形式的な平等が保たれた内容の法律が制定されればそれで足りるというものではないのであって、①憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益をも尊重すべきこと、②両性の実質的な平等が保たれるように図ること、③婚姻制度の内容により婚姻をすることが事実上不当に制約されることのないように図ること等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであり、この点でも立法裁量に限定的な指針を与えるものといえる。 他方で、婚姻及び家族に関する事項は、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ、それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断によって定められるべきものである。… …婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法13条、14条1項に違反しない場合に、更に憲法24条にも適合するものとして是認されるか否かは、当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきものとするのが相当である。」 |
論理の流れ
最重要。13条・14条で「権利ではない」「形式的には平等」として切りすてたものを、ここで①②③としてぜんぶ 24条にもどしてくる。これが判決の組み立て。 審査の順番:13条 → 14条1項 → それでも 24条に合うか(13条・14条をクリアしても 24条は別にチェックする)。 ✍️ 論証(24条の判断枠組み) 24条2項は、婚姻・家族に関する制度の構築を第一次的に国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、個人の尊厳と両性の本質的平等という要請・指針を示して裁量の限界を画した。この要請・指針は、憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益の尊重、両性の実質的平等の確保、婚姻が事実上不当に制約されないことへの配慮をも求めるものである。他方、婚姻・家族に関する事項は社会状況を踏まえた総合的判断により定められるべきものである。そこで、13条・14条1項に違反しない場合に、さらに24条に適合するか否かは、当該制度の趣旨や制度採用により生ずる影響を検討し、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきである。 |
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判旨 ④ 憲法24条(あてはめ)
「婚姻に伴い夫婦が同一の氏を称する夫婦同氏制は、旧民法…の施行された明治31年に我が国の法制度として採用され、我が国の社会に定着してきたものである。…家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。そして、夫婦が同一の氏を称することは、…家族という一つの集団を構成する一員であることを、対外的に公示し、識別する機能を有している。特に、…嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があると考えられる。また、…家族という一つの集団を構成する一員であることを実感することに意義を見いだす考え方も理解できる…。さらに、…子の立場として、いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすい…。加えて、…夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく、…協議による自由な選択に委ねられている。 これに対して、…婚姻によって氏を改める者にとって、…アイデンティティの喪失感を抱いたり、…社会的な信用、評価、名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることは否定できない。そして、…妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じているものと推認できる。さらには、…あえて婚姻をしないという選択をする者が存在することもうかがわれる。 しかし、夫婦同氏制は、婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく、…上記の不利益は、このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。 以上の点を総合的に考慮すると、…直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない。したがって、本件規定は、憲法24条に違反するものではない。」 |
あてはめの材料(答案ではここを使う)
【制度の趣旨・合理性】 ・明治31年から続き、社会に定着 ・家族の呼び名を一つにする合理性 ・家族の一員であることを対外的に示す・見分ける機能 ・嫡出子であることを示す(子が両親と同じ氏) ・家族の一員だと実感できる ・子がどちらの親とも同じ氏になれる利益 ・どちらの氏にするかは協議で自由に選べる 【生じる不利益(影響)】← ③-2 の①②③に対応 ・アイデンティティの喪失感、信用・評価・名誉感情の維持が困難(① 人格的利益) ・不利益を受けるのは多くが女性(② 実質的平等) ・そのために結婚しない人もいる(③ 事実上の制約) 【不利益の緩和】 ・通称使用は禁止されていない → 広まることで不利益は一定程度緩和 → 総合的に考えて、合理性を欠くとはいえない → 24条違反なし 反対意見がつっこんだのはここ:通称使用は法律上の制度ではなく、使えない場面も多いので「緩和」としては不十分、という批判。答案で違憲の立場をとるなら、この「通称使用による緩和」をくずすのが定番。 |
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判旨 ⑤ 選択的夫婦別氏制について
「論旨には、夫婦同氏制を規制と捉えた上、これよりも規制の程度の小さい氏に係る制度(例えば、夫婦別氏を希望する者にこれを可能とするいわゆる選択的夫婦別氏制)を採る余地がある点についての指摘をする部分があるところ、上記…の判断は、そのような制度に合理性がないと断ずるものではない。上記のとおり、夫婦同氏制の採用については、嫡出子の仕組みなどの婚姻制度や氏の在り方に対する社会の受け止め方に依拠するところが少なくなく、この点の状況に関する判断を含め、この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである。」 |
論理の流れ
「より制限的でない他の手段(LRA)」の審査はしなかった。これは、24条の審査が広い立法裁量を前提にしたゆるやかな合理性審査だから。 判決は「合憲」だが、ボールを国会に投げた形。 |
答案の型(まとめ)
| 書く順番 | 中身 |
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家族制度の違憲審査の型
婚姻・家族に関する法律の規定が問題になったら、この順番で書く。 1 13条(人格権の侵害か) 2 14条1項(不合理な差別か) 3 24条(立法裁量の範囲をこえるか) 13条・14条で落ちても、そこで出てきた利益を 24条の審査にもちこむのがコツ。 |
1 13条:問題の利益が「憲法上の権利」かを検討。氏のように法制度で内容が決まるものは、権利性が否定されやすい。→ 否定されても「人格的利益」として 24条で考慮する。 2 14条1項:文言上の区別があるか(形式的平等)。区別がなければ合憲。事実上の差は「実質的平等」として 24条で考慮する。 3 24条: (1) 24条2項 → 立法裁量+要請・指針による限界 (2) 要請・指針の中身 → 人格的利益・実質的平等・婚姻の事実上の制約への配慮 (3) 基準 → 制度の趣旨と影響を検討し、合理性を欠き立法裁量をこえるか (4) あてはめ → 趣旨(家族の呼称・公示機能・嫡出子・子の利益)と不利益(喪失感・女性に偏る・婚姻をあきらめる)をくらべ、緩和策(通称使用)も考える キーワード:「法制度をまって初めて具体的に捉えられる」「考慮すべき人格的利益」「形式的な不平等は存在しない」「立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合」「通称使用により一定程度緩和」 |